2020年から毎年秋に9日間開催。約13 万人が障がい者アートに感動。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックのレガシーを残そうと、江東区の地域住民がボランティアで立ち上げた市民芸術祭が、「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」です。
障がいのある人が描くアートは、見る人の心を動かす不思議な力があります。まだ本物の障がい者アートを見たことがない人が多いのが実情です。「共生社会」という言葉は良く耳にするようになりましたが、残念なことに障がいのある人に対する差別意識が社会に根強く残っています。
江東区は祭りの文化や人のつながりが大切にされてきた地域で、江戸時代から庶民がお互い様の精神で肩を寄せあって暮らしてきました。困った人がいれば、一肌も二肌も脱ぐのが、この地域が大切にしてきた文化です。
この芸術祭を障がい者アートを使い、「障がい者が堂々と暮らせる地域にしよう!」と呼びかけたところ、あっという間に実行委員が80 人、ボランティアが300人も集まりました。
富岡八幡宮、深川不動堂、深川神明宮や商店街も全面的に協力、地元を中心とした会社がパートナー企業として運営資金を寄付してくれました。障がいのある人の笑顔のために、深川の総力を結集した市民芸術祭が誕生しました。
600点の街なかアートで、街が美術館になる。
この芸術祭の特長が「街なかアート」です。本物と見紛うばかりのジクレー版画を額装し、4つのエリアで合計約600点の「街なかアート」を屋外に展示しています。歴史的な場所や観光スポットにアートを設置しているで、深川の街歩きを楽しみながら、障がい者アートをたっぷり鑑賞できるコース設定にしています。
屋外なので、友だちとアートを見ながら楽しくおしゃべりできます。街歩きをすれば、喉も渇くし、お腹も空きます。地元の商店を利用してもらえれば、地域活性化にもなるのが「街なかアート」の魅力です。
門前仲町、清澄白河、森下に加えて、豊洲も芸術祭の仲間に加わりました。
門前仲町と豊洲は、隣り合わせなのに地域交流が中々叶いませんでした。そこで、2022年から同じ江東区民として芸術祭を一緒に開催することにしました。豊洲エリアが加わったことで、歴史ある寺社仏閣や隅田川の風景など下町情緒も楽しめ、近代的な街並みとベイエリアの開放的な風景も味わえるようになりました。
2024年には、シビック・センターの1階ギャラリーで6日間「筆ロック・ごたまぜイベント」を開催しました。即興アートバトルで会場は盛り上がりました。江東区指定無形民俗文化財・砂村囃子(すなむらばやし)睦会の皆さんの演奏も豊洲の人々に紹介することができました。
日本を代表する多くの著名人も市民芸術祭を応援。
障がい者アートの選りすぐりの作品を紹介するために、全国公募展を実施しています。コシノジュンコさん、林真理子さん、假屋崎省吾さん、いとうせいこうさんが、「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」のコンセプトに共感、特別審査員としてボランティアで協力してもらっています。
2024年には、約1000点の作品の応募がありました。上位の賞は特別審査員に選んでいただき、45 個の各企業賞はそれぞれの会社に選んでもらいます。授賞式は、アーティストやご家族と作品を選んだ企業との嬉しい出
会いの場となっています。ご家族は涙を滲ませながら感謝の気持ちを伝えています。
出会いに感動したパートナー企業は原画を購入したり作品の二次利用など、アーティストの収入支援を積極的にサポートする、素晴らしいご縁が広がっています。
「みんなのアート絵馬神輿」は、江東区の障がい者が約1000人参加。
江東区の在住、在勤の障がい者が誰でも参加できる展示企画が、芸術祭のシンボルになっている「みんなのアート絵馬神輿」です。何も描いてない絵馬を皆さんに渡し、世界で1つだけのアート絵馬を描いてもらいます。絵が苦手な人はメッセージでも良いし、手形やシールなど自由に表現してもらっています。
初年度に参加を呼びかけたところ、1000人以上の応募がありました。急いで絵馬ボードも制作して、1200点のアート絵馬を全て飾り付けました。富岡八幡宮の境内に設置、会期中にアート絵馬の制作者とご家族が笑顔で記念写真を撮る姿が、私たちを癒しています。
ボランティアの魅力は何でしょうか?
現在は自営で不動産の仕事をしていて、普段は結構忙しいのですが、ボランティアをする時間は積極的つくるようにしています。
仕事で使っている脳と、ボランティアをしている時は明らかに違っていて、例えば、休日に映画や小説を読んだりするのと同じように脳がリセットされていく感じがいいですね。
アートで障がい者の収入支援や社会参加を行う。
私たちは、仲間と話し合い「アートパラ深川憲章」を策定、芸術祭の大儀を『共に生きる』にしました。
障がいのある人の低賃金は社会問題点となっています。私たちは、障がい者の収入支援になる様々な取り組みもボランティアで行っています。受賞の賞金だけでなく、40 人以上の入賞アーティストには、次年度の芸術祭でAMF(アートパラ・マーケット・フェア)というミニ個展を開催しています。希望者には作品の販売サポートを行い、売上げの全てをアーティストにお渡ししています。芸術祭の期間中以外でも作品の販売、二次利用などアーティストの収入支援を年間を通して行っています。江東区の福祉施設にも、お仕事を発注するように努力しています。
アートパラ深川は自主的な市民芸術祭です。
ぜひ、ボランティアに参加してください。一緒に江東区に笑顔を増やしましょう!
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年
2024年度の実行委員長を務めました、本田和恵と申します。私は、初年度は一般ボランティアとして参加しました。
息子にも発達障害があり、幼いころから絵を描くことが大好きだったので参加してみたいと思ったのがきっかけでした。活動を通して、多くの皆さんと交流でき、ますます関わりたいという思いから2年目からは実行委員となりました。
年々、アートパラ深川の認知度は上がってきたと感じますが、100年続く芸術祭を目指す私たちにとっては、まだたった5年目です。「共に生きる」という大切な思いを長くつなげていくにはどうすればよいか?と常に考えています。
今年は、福祉施設に通う皆さんと一緒に授賞式で使用する飾りを作ったのがとても印象に残っています。その飾りによって、手作り感の温かみが増した授賞式になりました。こうした活動をより増やしていくことで、共生社会が当たり前になることを切に願っています。